「谷崎潤一郎マゾヒズム小説集」「谷崎潤一郎フェティシズム小説集」(集英社文庫)

いかにもなタイトルであるとともに表紙のイラストが素晴らしい。(中村祐介さんというイラストレーターの作だそうです。)このままの状態で電車に持ち込んで読むのは少々気が引けます。
「フェティシズム・・・」に収録の「刺青」は新潮文庫などにあるので読んだことがありますが、それ以外のものはどれも読んだことがないものでした。
センセーショナルなタイトルとイラストの割には、実はマゾヒズムレベルは柔らか目です。そもそも谷崎先生の小説はそのほとんどが「マゾヒズム・フェティシズム小説」だと言って差支えなく、「痴人の愛」「瘋癲老人日記」etc.の方が余程味が濃厚です。ひょっとすると、その味の濃厚さゆえ、一発で愛読者を失ってしまう可能性を秘めており、そうならないためにはむしろこれらの「マゾヒズム小説集・フェティシズム小説集」から始めていただいた方が、谷崎先生の世界にどっぷりと入っていただけると思うので、これらの文庫本を見かけたら迷わず買っていただきたい。
世の中に小説家は沢山おられますが、私にとって上位3人を挙げるとなった場合には谷崎潤一郎先生は落とすことのできない存在。(他の二人は今現在では夏目漱石、カズオ・イシグロ)
正直に言えば少々変態感の強い谷崎潤一郎先生の小説たちですが、これらの「マゾヒズム・フェティシズム」の表面的な変態感だけでなく、繊細な美意識とか本質的な愛情などをぜひ感じていただきたい、と思う次第です。
そうは言っても「痴人の愛」などは濃厚すぎるかな?昔の日活ロマン女優に「谷ナオミ」さんという方がおられたのですが、この方の名前は「谷」は谷崎先生の谷、「ナオミ」は痴人の愛の主人公のナオミからとったものでした。谷さんもこの濃厚さにやられてしまったのでしょうか?
さらにこの小説集で忘れてはならないのは、「マゾヒズム小説集」の方に記載されている「みうらじゅん」さんのあとがきです。みうらさんというと週刊文春の「人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた」と書き出す妙なコラムがありますが、この文庫のあとがきは秀逸。谷崎先生の本質をバッチリとらえておられる。(一方「フェティシズム小説集」の方のあとがきは「KIKI」とおっしゃる私は承知していないモデルさんのもの。こちらはなんとも表面的。浅い。)このあとがきも含めて、強く推奨する文庫です。
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