テスカトリポカ(佐藤 究)

2021年上半期の直木賞受賞作「テスカトリポカ」

「テスカトリポカ」とは聞いた事のない言葉ですが、アステカの神話の中の神様だそうです。どういう訳か「煙を吐く神」なのだそうで、これがどういうことなのかは、本書にあたっていただくよりないです。

 アステカの神は「●生贄を要求する」「●生贄については心臓にフォーカスしている」ようで、これがこの物語のメインストリームとなっている麻薬及び臓器売買とうまい具合に嚙み合っています。

 小説のジャンルとしては「ノワール」に該当すると思います。つまり「闇社会を題材に、悪意、差別、暴力を描く小説」で、救いのない物語が多いジャンルなのですが、この「テスカトリポカ」は登場人物のキャラクタ-造形により、最後は救いにたどり着いています。ノワールというと私は「ジェイムズ・エルロイ」という作家が好きで「ホワイト・ジャズ」や「アメリカン・デス・トリップ」などの小説は多分5回くらい読み返している。そのエルロイの特徴に「クランチ文体」というものがあって、具体的には「単語の羅列・/(スラッシュ)の多用」によって独特のリズムで読むことが要求されているものです。この「テスカトリポカ」では、おそらく作者が意識的にそうしていると思うのですが、ほんの少々クランチ文体が混入してあると思う。そうすることで、読みにリズムが生じる。ただしエルロイのように全文クランチで行くと「これは読めない」となってしまう可能性があり、文体だけでこの小説を敬して遠ざけられるのは惜しく、結果一部での使用となったのではなかろうか。そういうことであるならば、その狙いは成功であるだろうと思う。