ババヤガの夜(王谷 晶)

イギリスの文学賞であるダガー賞の翻訳部門を受賞した小説だそうで、この賞については柚木麻子さんの「BUTTER」という小説が候補になっているという事を事前に知っていたのですが、その柚木さんの小説は読んだことがなく、本屋をのぞいた時にちらっと眺めてみたらずいぶん沢山の小説があることを知り、「まぁ、受賞したら読もうかな。」位に思っていたのですが、こちらの王谷さんについてはノミネートされている事も知らなかった。
ババヤガはどこかの国の民話などに出てくる鬼婆のようなものだそうで、これは主人公のことでしょう。この主人公が暴力団組長の箱入り娘の警護役として雇われるところから話が始まります。この二人の関係性をキーにして物語が展開するわけで「バディ物」と言われるジャンルに入るだろう。この二人の関係性の成長が大変興味深い。ミステリー小説ですので、後半で「アレっ!」という物語の読み違いが発生します。まぁそのあたりは読んだ方が楽しむところですからここでは触れないとして、この小説は最後の解説とあとがきがかなり本質に迫っていて、この二つの価値が大変大きい。
解説は深町秋生さんという売れている小説家です。解説では王谷さんの作品の履歴などに触れながら、世の中のド助平な男たちと男たちに都合よく作られた社会制度などを笑い飛ばしていると本作を分析していてこの小説の本質にバッチリ迫っている。(藤田の憶測です)なんと偉大なプロレスラー、破壊王橋本真也の「破壊なくして創造なし」を持ち出して、この小説をたたえている。解説大賞を与えたい。
作家本人によるあとがきでは、登場人物の名前のひねり出し方などに触れているが、小説中では登場人物の名前をキーにして、ミステリー的要素が展開していくのでこちらもこの小説の本質なのかな、と思える。さらに、作者が敬愛する作家の中に「ジェイムズ・エルロイ」が出てきており、これは私好みの作家で「L.A.コンフィデンシャル」「ホワイト・ジャズ」の暴れ者たちとこの小説の登場人物を照らし合わせてみると面白い。ところで「L.A.コンフィデンシャル」は映画も素晴らしいのですが、「タイタニック」と同じ年に売り出されたためその陰に隠れてしまったという悲しい経緯もあります。「タイタニック」ってそんなに素晴らしいか!?(だって、歴史物は始まった時点で結論がわかっているのですから、それをなぞったところで感激はしづらいですよね。)
解説・あとがき共にミステリーの興味の中心には触れていないですから、先に読んでも問題ないです。是非こちらを味わっていただけたらと強く主張します。
以上