百年の孤独 ガルシア・マルケス

昨年、新潮文庫が満を持して文庫のラインナップに加えたノーベル賞受賞作家の名作です。日本で刊行されたのは1972年だそうで、私は以前これを読みかけて途中で投げ出したことがある。
「やたら長い文章があり、その途中で現在・過去・未来と時間が変わったりする。さらに、段落も変わっていないのに、次の文ではいきなり別の内容を述べ始めたりしている。でも結果としてどこかのタイミングでこれらがどうも関係あるみたいだ、ということで落ち着く感じになってる。」というのが次々起こってくるので読んでいるうちについていけなくなった、というのが原因だったと思う。仕事を持っている者がこういう本を読むのはつらい。いろんな話の関連が明らかになったところまで必ず読めるとは限らず、中途半端なところで読書を打ち切る、ということを続けていると必ず迷子になる時がやってくる。
今回はこの件について強い味方が現れました。作家の池澤夏樹さんが「百年の孤独 読み解き支援キット」というものを用意してくださっており、新潮社のHPでダウンロードすることができるのです。これが2・3ページ分くらいの小さい単位でストーリーをまとめてくれてあって、左側に新潮文庫のページが降ってあるのです。さらにこれをA3の両面に印刷すると、うまく折りたたむとなんとなく文庫本にはさんでしまえるサイズになるので、読書を再開する前に前回までのストーリーを軽く思い出すことができる。今回私が途中で投げ出すことなく読むことができたのはこの読み解き支援キットのおかげです。
ストーリーは池澤さんのおかげで迷子になることがなくなったとしても、この小説にはまだハードルがある。この小説はある村に住む一族の代々の話なのですが、彼らは先祖代々ほとんど同じ名前を命名されている。翻訳の小説ではよくあることなのですが、名前がなんとなく直感的に頭に定着しづらい。そのうえでおじいさん、お父さんと子供の名前が同じだと混乱してしまう。これについては「読み解き支援キット」に家系図がある(文庫本にもありますが)ので、それを見ながら乗り切りました。これは慣れてくれば乗り切れます。名前の苦労と言えば「カラマーゾフの兄弟」で、別のバージョンの苦労があって、同じ人物に3パターンくらい呼び名があるので、誰が誰やらわからなくなりやすいのですが、たしかこの時は付録についているしおりに名前が整理して書いてあってどうにか乗り切れたように思いました。それに比べると百年の孤独の方が乗り切りやすい。
もう一つ「マジックリアリズム」というのがあって、これは百年の孤独の特色といった方が正しいので「ハードル」と感じてしまう場合は読まない方が良いことになってしまうのですが、超常現象的な出来事が極々当たり前にサラッと、しかも次から次へと書き込まれてくるのです。息子が死んで流れた血が街なかの路地をすいすいと走って母のもとにたどり着き死んだことを知らせる、不眠症という伝染病が村に持ち込まれ村中の人が眠らなくなる、町一番の美女が突然ふわりと舞い上がり天まで上がっていき実はそれが彼女が死んだあかしだった、などなど。そういた次々起こる超常現象に誰一人突っ込むことなくサラッと述べられていきます。
そのような似たような名前の人たちが愛し合ったり憎しみあったり孤独であったりで、つまり「百年の孤独」なわけです。
非常に残念なのですが、今のところ私はこの小説が表現しているものについて半分もたどり着いていない。いつか時間があるときにじっくりと読み返そう、と決心しています。そういう決心している小説は他にもたくさんあるのですが…