銃(中村 文則)

愛知県東海市の出身で芥川賞を受賞した作家である中村文則さんの第1作「銃」と,芥川賞受賞の少しあとに発表された「火」が収録された文庫本。
偶然銃を入手した主人公の人生が銃の影響で変わっていくというストーリー。ロシアの劇作家チェーホフの言葉で「第1幕で壁にライフルが掛けてあると言ったなら、第2幕か第3幕で必ずそれを撃たなければならない。発砲されないなら、最初から壁に掛けるべきではない」というものがあって、つまり「銃」という強烈な個性を持つものは登場した以上使われなければならず、使われもしないのに銃を登場させてはいけない。、ということです。この「銃」では、銃を拾ったことで主人公の心の持ちようが変わっていくので、心を動かすツールとして十分活躍しており、必ずしも発砲されなくても許されるかもしれないと思いながら読んだのですが、結局発砲されました。
だらだらと過ごしている大学生が、銃を拾うことで少しづつ変わっていく。そうはいっても愚かな性分は変わらず、それを反省などしてはいる。銃は心理学や文学などでは攻撃性、性的衝動、防衛意識、権力、強迫観念などを暗示することが多いとされているようです。本作では攻撃性、性的衝動が強く意識されている。銃によって強さを意識し始めた主人公は、しかしながら結局だらだらと過ごす場当たり的大学生の本質が出てしまった感じで破滅に向かいます。
いわゆる「純文学」系の本は短いことが多い。本作も文庫本で180ページ程度のボリュームですので、すぐに読める。これは大変な利点です。
もう1作「火」は性的な倒錯感のある作品で、作者はあとがきで「こういう小説を書いてしまう自分をどうかと思う・・・」と言っていて反省をしているみたい。でも、村田紗耶香さんの小説を読むと、まだまだ全然正常なので大丈夫ですよと言いたい。
河出文庫で税込み693円。最近は文庫本でも千円以上するものが沢山ありますが、そんな中で大変経済的。短いですけれど、2・3回読むことに耐える内容だから、十分楽しめるのでお勧めします。
以上

