鑑定評価書のご説明④ 鑑定評価の基本的事項_2 鑑定評価の条件

今回は「鑑定評価書のご説明③」の「Ⅲ.鑑定評価の基本的事項_1」に引き続いて「鑑定評価の基本的事項_2 鑑定評価の条件」をお贈りします。
【記載例】
Ⅲ.鑑定評価の基本的事項
2.鑑定評価の条件
(1) 対象確定条件※1
対象不動産の現状を所与として鑑定評価を行う。
(2) 地域要因又は個別的要因についての想定上の条件 ※2
な い
(3) 調査範囲等条件 ※3
な い
~~~~~~~~~~~~~~記載例 ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【ご説明】
不動産の鑑定評価は「現実の状態そのまま」を前提として行うことが原則なのですが、原則しか認めない!という硬直的なやり方だと社会的な需要に十分に応えられない場合がありうるので、一定の条件の下で「現実の状態そのまま」以外の不動産の価格を求めることができるとしているものです。例えば「建物等が存在していますが、これらが存在しない更地として鑑定評価を行う。」「土地と建物が存在していますが、この状態を前提として土地のみを鑑定評価の対象とする。」等々です。これらについて妥当性を確認したうえで鑑定評価を行います。
※1 対象確定条件
「対象確定条件」とは「対象不動産の確定に当たって必要となる条件」で次の5つが例示列挙されています。(不動産鑑定評価基準から抜粋)
「(1)不動産が土地のみの場合又は土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として鑑定評価の対象とすること。
(2)不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その土 地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)として鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を独立鑑定評価という。)。
(3)不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状 態を所与として、その不動産の構成部分を鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を部分鑑定評価という。)。
(4)不動産の併合又は分割を前提として、併合後又は分割後の不動産を単独のも のとして鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を併合鑑定評価又は分割鑑定評価という。)。
(5)造成に関する工事が完了していない土地又は建築に係る工事(建物を新築するもののほか、増改築等を含む。)が完了していない建物について、当該工事 の完了を前提として鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を未竣工建物等鑑定評価という。)
なお、上記に掲げるもののほか、対象不動産の権利の態様に関するものとして、 価格時点と異なる権利関係を前提として鑑定評価の対象とすることがある。」
これらは「不動産鑑定評価」の対象となる不動産を明確にするために確定するもので、案件の依頼をいただくときに、依頼者さまのお話をお聞きして不動産鑑定士が「これは(1)に該当する。」というような判断を下します。
普通は(1)か(2)のものが多く(3)(4)だと変化球の案件で、(5)だとかなりの変化球です。(5)では終わっていない工事の完了後をイメージするわけですから、依頼者さまが希望しているからといって必ずその通り受託できるものではなく、実現性・合法性等の観点から不動産鑑定士が第三者等の判断を誤らせること、利益を害すること等がないか、ということを判断して受託できるか否かを決めることになっています。
※2 地域要因又は個別的要因についての想定上の条件
「地域要因又は個別的要因についての想定上の条件」とは、「用途地域が変更されたものとして」とか「土壌汚染が除去されたものとして」というような、現実の価格形成要因とことなる状態を前提として鑑定評価を行うことをいい、普通はあまりやりません。特に地域要因に関する想定上の条件は「公的機関が設定する事項に主として限られる。」ことになっています。
不動産鑑定士はこれらの設定について「鑑定評価書の利用者の利益を害する恐れがないこと、および実現性、合法性を満たす」ことについて可否を判断します。
※3 調査範囲等条件
調査範囲等条件とは「不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための事実の確認が困難な価格形成要因が存する場合、当該価格形成要因について調査の範囲に係る条件を設定することができる」とされていて、事実の確認が困難な価格形成要因の例は
(ア)土壌汚染の有無及びその状態
(イ)建物に関する有害な物質の使用の有無及びその状態
(ウ)埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態
(エ)隣接不動産との境界が不分明な部分が存する場合における対象不動産の範囲
となっていて、これらについて鑑定評価書の利用者の利益を害する恐れがないというのは次の場合であるということになっています。
(ア)依頼者等による当該価格形成要因に係る調査、査定又は考慮した結果に基 づき、鑑定評価書の利用者が不動産の価格形成に係る影響の判断を自ら行う場合
(イ)不動産の売買契約等において、当該価格形成要因に係る契約当事者間での 取扱いが約定される場合
(ウ)担保権者が当該価格形成要因が存する場合における取扱いについての指針 を有し、その判断に資するための調査が実施される場合
(エ)当該価格形成要因が存する場合における損失等が保険等で担保される場合
(オ)財務諸表の作成のための鑑定評価において、当該価格形成要因が存する場 合における引当金が計上される場合、財務諸表に当該要因の存否や財務会計 上の取扱いに係る注記がなされる場合その他財務会計上、当該価格形成要因 に係る影響の程度について別途考慮される場合
ということで、なかなか難しい上に、実際、鑑定評価書の利益を害する恐れがある場合が多くあまり積極的には対応できない事案です。
そうは言ってもやることが妥当かつ意義のある場合もあるので、その場合にはきちんと明示するということです。
「鑑定評価の基本的事項_2 鑑定評価の条件」は以上です。