マクロ経済学の核心(飯田 泰之著)

 たいそうなタイトルですが、大学の経済学部でやるようなマクロ経済学の基本的な理論が書かれている本です。つまり「国民所得計算」に始まって「景気循環」「IS-LMモデル」から「労働と価格のモデル」のような順番で、普通のマクロ経済学のテキストの標準的な論点が、標準的な順序で記載されています。ただし、新書版約250ページは初めてマクロ経済学に取り組む方がそれなりに理解するには少々ページが少なすぎますので、大学かそれとも資格試験などでマクロ経済学を一通り学んだ方でないと理解は苦しいかもしれません。
 私は大学で経済学部に通い、さらに不動産鑑定士試験で経済学をやりまして、その時に「これは非常に有意義なものだ。このまますっかり忘れてしまうの惜しい。」ということで、試験合格後も時々テキスト等を読んでいたのですが、これが「読み物」的に読むのはなかなか大変で、そういう時にさらっと忘れそうな経済学を思い出せるこの本が非常に便利。
 世の中に経済政策をこうしなさい、ああしなさいと提言している「経済政策論」的な本は数多ありますが、そういったものに私はほとんど興味がない。きちんとした業績を上げた大学教授のなどのような方が言うならまだしも、どうも怪しげな方が現政権ないし過去の政権の経済政策を批判的に論じておられる。非常にご親切ですが、そういったものはご専門かつご担当の方に任せておくのが良かろうと思います。私としては、経済学の知識を衰えないようにしながら、日経新聞の記事などを自分なりに経済理論にあてはめながら考える、ということの方が有意義。
 ところで、この本の特色は著者によると「中期マクロモデル」の重視だそうで(ちょっと難しいね)「供給主導モデルと需要主導モデルをパッチワークのようにつないで経済問題の全体を理解する」(これは絶望的に難しいね)ということだそうです。つまり経済学にはケインズ派の有効需要の原理と古典派(又は新古典派)のセイの法則というものがあって前者は「有効な需要が社会の生産水準を決める。」というもので後者は「供給は需要を創出する」というもので、なんとなく対立感がある。サラリーマン生活を長く過ごした私には後者は直感的に「そんなはずはなかろう」という感じですが、「ものを作りすぎると、市場価格が値下がりして、結果的に需要が増えるのです。」というのが後者の説明です。(そうは言ってもタダでもいらないものもあるだろう、と突っ込みたくなりますがややこしくなるらしいのでやめます)これらの対立する主張をどう考えるか、私の記憶だと短期的には前者、長期的には後者だったのじゃないかな、と思うのですが、本書では「ショートサイド原則」つまりその時の経済の状況で需要が低い時は前者、供給が低い時は後者という風に区分して理解できるように工夫して執筆したそうです。
 このあたりはふーん・・・という感じですが、それはそうとせっかく苦労して学んだ経済学を短い期間で思い出す、というためには非常に有意義な本です。