成瀬は天下を取りにいく(宮島 未奈)

 「本屋大賞」という文学賞がある。はじめの頃にいくつか読んだものがどれもピンと来なくて、ずっと敬して遠ざけてきた。

でもこの「成瀬は・・・」は、初めてピンときました。もっと言うと夢中になって読んで、さらにもう一回読み直したところで、その2回目も夢中になった。この欄で近頃2作くらい本屋大賞系を扱ったのですが、正直ピンと来なかったし、実はもう一つ本屋大賞系を読んでいるのですが、とても感想を書こうという気にもならず取り上げなかった。正直に言うと、仕事をしながら時間を見つけて読書をし(さらに新聞2紙にガッツりと目を通すことを日常にしているのでその時間の捻出にも苦労しているし)ているところで、「大賞」と銘打った本でこんな感じだとついていけない状態になりかかっていたところで、「成瀬は・・・」が逆転ホームラン。

 まずは文庫あとがきで森見先生が指摘している書き出しの力。最初の一文を思いついたところで宮島さんは相当なファインプレーの手ごたえがあったでしょうね。

 次いでキャラクターの力。主人公の成瀬について言えば、読んでいるとミクロ経済学に出てくる「合理的経済人」が連想される。つまりすべての行動が完全に理論的で合理的。しかし、「合理的経済人」の代表のような成瀬が浮いた存在であるということは必然的に、ミクロ経済学の完全競争市場を前提とした一般均衡・部分均衡などは突然信憑性が薄くなってしまう。まぁだからと言ってミクロ経済学がひっくり返るほどではないのですが、それでもこのキャラクターを思いついたのは素晴らしいファインプレーだ。

 6つの短編で成り立っているけど、それぞれ語り手が変わる。恋愛を取り上げた「レッツゴー・ミシガン」では、成瀬が語り手になった「合理的経済人」の恋愛観を覗いてみたかった。(と言っても成瀬の発言でだいたい想像がつき、「合理的経済人」を前提とすると発言と心の中はおそらく等しいのかな)

 今後の宮島さんがとても楽しみだ。短編ばっかではつらいかなと思うのですが、石田衣良さんのIWGP(新日ではないです、為念)のケースがあるから、このままでも直木賞まで行けるだろうね。1か月くらいおいてもう一回読もうかな。

以上