BUTTER(柚木 麻子)
前回ご紹介した「ババヤガの夜」が受賞したイギリスのダガー賞というミステリー小説の翻訳部門に、こちらのBUTTERもノミネートされていて、作家の知名度が柚木さんの方が高かったので、その件は事前に新聞などで読んでいました。
ダガー賞は受賞できなかったのですが、イギリスで翻訳本がずいぶん売れているらしく、いくつかの賞を受賞しその記念ですということで文庫本の表紙がリバーシブルになっていて、上の写真の右側はイギリスで販売されている本の表紙が文庫カバーの裏側に印刷されています。カタカナでゴシックの「バター」が目を引きます。バターが印象的な「ちびくろさんぼ」も効果的に出てきます。
この小説はミステリー小説に区分されているらしいのですが、小説の中で何らかの事件は起こらず、獄中の殺人犯の女性と週刊誌の編集者の女性との交流の中で、「あっ、やられた!」的なミステリー要素のような事が起きます。でも正直に言うと、ミステリー的要素はそんなに大したことのない小説で、この小説はグルメ小説と理解したほうが興味深い。
中心はバターなのですが、次から次へと美味しそうな食べ物が登場し、さらに、卓越した描写力で「さ~、おいしいですよ~。」と呼び掛けてきます。バター醤油ご飯、ビーフシチュー(と思わせておいて「ブフ・ブルギニョン」という聞いた事のない牛肉の煮込み)、塩バターラーメン(食べるべき状況・時間が指定される。)七面鳥などなど。これらだけで読む価値がある。池波正太郎、東海林さだお、色川武大など私が読んだことのある食べ物小説作家はこの程度ですが、これらは簡単に凌駕されている。最後の最後まで七面鳥で楽しませてくれますからグルメ小説として十分なグルメ量です。
さらに言いますと、食べ物については指南役といいますか、これがおいしいのですよ、食べなさい。という司令塔(背番号10)が出てくるので、海原雄山が出てくるコミック「美味しんぼ」の方が近い。
ところで少々気になるのが、ここに出てくる女性らは裏切られるとひきこもる傾向がある。業務上で裏切られたとして、簡単にひきこもるというのは違和感が大きいです。お前の仕事程度の気合の入れ方じゃないんだよ!という反論はありましょうが、それでも裏切られたくらいでいちいちひきこもっていたら、周りが迷惑でしょうに。女性だからやさしくしてやれ、という向きもありましょうが、私の周りの女性でこんな簡単にひきこもる方は一人もいませんでしたよ。
そうは言ってもやはりこれは燦然と輝くグルメ小説なのですね。
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