殺人出産(村田 紗耶香)

表題作含め4編の小説が掲載されていますが、表題作「殺人出産」の一番長くて、一番インパクトが強い。殺人と出産では生命を生みだすもの及び終焉に導くもので、意味合いが逆になっているのでこれが結びつきづらい故タイトルとしてかえって目を引く効果もある。
●殺人出産
最終的にミステリー仕立てになっているので、ストーリーの紹介はしませんが、10人出産すると1人の殺人が許されるという少々異様な設定ですが、村田先生の小説であればこの程度の異様さは標準的。
一人出産するというだけでも(恐らく)肉体的・精神的・社会的な負担は相当大きく、それを10回するということは執念の大きさがうかがえるわけですが、私の直感でいうと今までの人生で嫌いな人物が身近にいたとしても「どこかに消えてしまえばいいのに。」とは思ったとしても「死んでしまえ。」とまでは思ったことはない。「死ぬ」≠「消えてしまう」であって、つまり「死ぬ」ということには「痛かろう。」「怖かろう」「寂しかろう」という感情が予想され、「どこかに行ってしまえ。」に加えてこれらの苦しみを与えるほどの恨みは持ったことがないということです。
つまり「痛かろう。」「怖かろう」「寂しかろう」云々(さらにはもっといろんな苦しみがあるかもしれない)は、出産の負担10回分と相当である、という判断で成り立っている仮想の世界なわけですね。
場合によっては、恨みつらみはないものの純粋に殺人に対する興味というものもあり得るかもしれず(シリアルキラーという言葉がありますが、これは厳密には3人以上の連続殺人鬼をさす言葉のようです。)これもこの仮想空間では10人分の出産と引き換えに許容されるということですね。小説内ではこれが合理的な制度であるということで仮想社会が運用されています。これは物語の前提なのでこの件の良し悪しに議論は無意味なのでしょう。そうすると、出産の意義とかについて考えるきっかけとするのが正しい態度なのかな。
●トリプル
二つ目は「トリプル」。普通の男女の付き合いとして「カップル」があり、そこに男女三人で付き合う「トリプル」が流行している世界を想定した物語。母親は「乱交」「3P」なのだからしてはいけない、と主張している。どうも主人公は女子高生なので、いきなりこう主張すると、そもそものところで母親から男女関係が一定程度許容されてしまっている。まぁそれはよいとして、一方その主人公は、「カップル」の性行為を見てしまい対象が悪くなるほど気分を害してしまう。自分の知らない価値観は気持ち悪いと感じがちですね。
●清潔な結婚
きれい好き同士の結婚。見苦しいところは家庭外にて。結局は感性がどこか歪んでいるのですね。
●余命
死ぬタイミング・場所等を選べる社会。5ページくらいの短文なので良し悪しの判断には至らないです。
以上
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