日本、遥かなり エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」(門田 隆将)

 サッカーの北中米ワールドカップが終わりましたけれど無理して朝早いTVを見て少々体調のリズムがずれましたね。

 ●日本代表がブラジルに負けた直後は「よく頑張ったな」と思いましたが、その後の他チームの試合を見ていると「あれではよく頑張ったと言うには少し気合が弱かったな。」に変わっていきました。まぁ4年後に期待しよう。

 ●それよりも、特に南米代表国に顕著なのですが「マリーシア」などと言われる「ちょっとズル賢いプレー」はもうそろそろ改めたほうがよいですね。

 仕事では「ルール・ベース」「プリンシプル・ベース」なんて言われたりするけど、それほどややこしいことを持ち出さなくても「スポーツマン・シップ」という感じで乗り越えられそうだ。つまり、ルールやレフェリーが全能ではないので、最後は自己の良心が導く感じ。レフェリーに見つからないところでうまくやるのではなく、競技として自分に恥じぬプレーをする。ラグビー代表ではそれが出来ている国もあるようだし(最近ラグビーでもズルがばれたのを新聞で見かけた、残念)。

ところで、今回の本は門田さんの力作。

 イラン・イラク戦争、湾岸戦争、イエメン内戦、リビア内戦、(アフガニスタン米軍撤退:北村晴男先生が解説で追加)で現地に残された日本人の救出エピソードを通じて、海外在留邦人を救出しようとしない日本政府のあり方を問うています。政治に関しての主張をここで行うことは避けますが、本書は「アントニオ猪木」が重要な役割を負っておりそちらを中心にアプローチします。

 湾岸戦争の発生時、日本政府はイラク在住の日本人を救助に行けないということで、アントニオ猪木が他の議員や日本政府の妨害にもめげず乗り込んで行って「平和の祭典」を行うという傍目には突飛なことを言い出し、それを戦時下で実現します。結果的にそこに集まった在留の日本人をトルコの出してくれた飛行機で救出することに成功します。

 この事件については少々記憶に残っていて、湾岸戦争の数年前から猪木は体力が弱りはじめ、なぜか「アントン・ハイセル」という会社でブラジルでのバイオエタノール事業などに手を出し(この頃にバイオエタノールに着手していたのだから先見の明はあったのだろう)失敗続きで新日本プロレスの会社やレスラーなどから無心などしたお金を使い込んで周りを困らせており、湾岸戦争の前年位に突然「スポーツ平和党」という政党を作って参議院に立候補するという突飛な行動に出ました。この立候補については、新日本プロレス関係者は「これで猪木の無心から解放される!」ということで皆さん大賛成で「社長、ぜひやってください」と励ましていたとか。

 そんな中でのイラクへ乗り込み&平和祭だったので、当時の私は「どんどん猪木がおかしくなっていくな!」と思っていました。そして戦時下のイラクで「長州力×マサ斎藤」「馳浩×佐々木健介」というマッチが組まれたのでした。私としては当時の猪木の作戦には思い至らず「いったいなんなんだ?!」という心境。でも結果として在留日本人を連れ帰って来てくださったので「なんだかんだ言って素晴らしいな。でもきっと運のいい男なんだろうな。」みたいなことを考えていました。この本では当時の猪木の作戦や周囲の反応が描かれており、自らの思いのなさを今更ながら知るに至りました。

 ところで猪木さんはこの時にイスラム教に改宗しておりムスリム名はモハメッド・フセイン・イノキだそうで、どうもこの改宗がトルコの大統領の気を引くことになり飛行機の提供の決定要素として大きな役割を果たしたとか。その件でも、当時「いきなりイスラム教とは、猪木さんはどうなっちゃうのか?」と感じており、これについてもちょっと浅薄だったな、と。

 それにしても猪木さんの件に限らず、各事件の日本人の救出エピソードでこの本には我々は知っておくべき事実が記されており、その意味で必読の書といえる。実はそのエピソードを知れば知るほど、日本の行政及び政治家等に対して大きな不満をもつ可能性が高いのですが、そこはお読みになって感じていただくべき事だと思います。

 なお猪木さんについてもう少し記憶をたどると湾岸戦争の5年後ごろには北朝鮮での平和の祭典を思い立ち、そこでは拉致被害者救出はならなかったものの、その祭典に参加した佐々木健介と北斗晶が結婚するという多大なる成果が得られることが出来た。

 この本の著者である門田先生はTVでお見掛けする「ぴんからトリオのような妙な髪形」をしたジャーナリスト&保守論客という印象でした。保守論客という印象については変わりはありませんが、こんな素晴らしい著作があるとは知りませんでした。

 残念なことに2026年時点でこれらの紛争地における在留邦人救助問題は解決されていない。国際紛争のリスクが高まっている中、どう乗り切っていくのだろう。アントニオ猪木はもういないし、岸元防衛大臣は政界を引退している。初めに「ルール・ベース」「プリンシプル・ベース」と言ったけれども、日本が他国を侵略するという実態上非常に非常に些細で些末な懸念を担保するという名目で「人命」を守るという重要な目的の邪魔をしてしまっている。著者はよほど腹に据えかねたのか明確な個人攻撃ではないものの一部を実名で著している。「人命が最も大切である」というプリンシプルをまず掲げることは無理なのだろうか。 

以上