雨滴は続く(西村 賢太)

西村 賢太さんは私小説というジャンルの「苦役列車」という小説で芥川賞を受賞している。そして、この「雨滴は続く」も私小説にジャンル分けされる小説である。2022年に54歳という若さで他界されており、「雨滴は続く」は連載中であったそうで、この本のラストに「未完」と綴ってある。(夏目漱石の明暗みたい)
「苦役列車」と「雨滴は続く」しか読んだことはないのですが、それによる西村さんの文体の特色は次のとおり。
●破綻しかかっている人生を綴った小説である。私小説というジャンルは、自らの人生をそのままストーリーにして綴るもので、例えば私の特徴のない人生は小説にしたところで他人様が読む意味はないが、西村さんの破綻しかかっているがなぜか神経質で小心な人生は一読の価値がある。
●そうは言っても、特に女性に対する本音の部分は快く感じない読者がいるだろう。しかし、おそらくこの辺りは多分に誇張があるように思われ、ある意味下衆な表現・感覚はこの物語の本質ではなかろう。この本のラストには特別原稿として、主人公が「岡惚れ」した女性の「親愛なる西村さんへ」という文章が掲載されている。この女性は主人公が気を寄せるもののそれがうまくいかず、ひどい表現(口臭女なんて言うものもある)で貶められている。しかしながら、この女性は西村さんに非常な好感を寄せており、二人で酒を酌み交わすことなどもあったようだ。この方は口臭女という表現をどう読んでいたか気になるところ。しかし、これらは女性に対する下衆な表現の誇張を推察させる。
●思うにこの小説は、読んでいるとリズムがよくなぜか主人公の醜い言動・心情は気にならない。これはこの小説の中に出てくる「かなり熱心な推敲」によるものだろう。音読しなおしてみて、流れが悪いと書き直しているようだ。
●さらに、下衆な内容とは相いれない難しく・ある意味気高い表現(結句、ふとこる、岡惚れ等々)などもよいアクセントになっている。
私小説を描く作家である以上、物語はほとんど同じようなカラーになるのではなかろうかと予測できるのですが、そうであってもほかの小説ももっと読んでみたいと感じる小説です。
以上

