傲慢と善良(辻村 深月)

 文庫の帯に「超ロングセラー 累計140万部突破!」「人生で一番刺さった小説」の文字が躍っています。いつもならこういう”釣り”がたっぷりの小説は手に取ることはないのですが、先日から「辻村深月の小説はよさそうだ。」と思い込んでいたためつい手に取った。

 「よさそうだ。」と思った背景は辻村せんせいのミステリーは面白いのではなかろうか?!という事なのですが、この小説はミステリー小説と言えなくはないですが、恋愛小説(もうちょっと細分化すると婚活小説)の要素が強い。こういうことは予めどこかに軽くでもよいから書いておいてほしいもので、60歳を優に超えたおっさんがこの本を買っている姿は汗顔の至り(^^;

主要ストーリーは「架くん」と「真美」さんが婚活で知り合う。架くんは若いころからモテていてこれが恋愛に対して「傲慢」という概念と結びついていて、一方「真美」さんは男性に対して積極的ではない青春を過ごしてきていて、結果として婚活に対して「善良である」という概念があてはめられているところから始まっている。

 「真美」さんがストーカーを受けていて、そうこうするうちに姿を消し、「架くん」がこれを探す。探す過程で「傲慢」「善良」の概念が転回しはじめ、ついに「真美」さんが主語になるパートではその転回が・・・

 というわけで、この「傲慢」と「善良」という概念をうまく使ったところが「超ロングセラー 累計140万部突破!」「人生で一番刺さった小説」につながったんだな、と理解できます。私としては「善良」のかけらもなく「傲慢」ではあるのだけれど小心でみみっちい「傲慢」であり、みっともない人生を送ってきたものだ、と反省しながら読みました。

 しかし、「傲慢」「善良」いずれも主観的な概念(もちろん他人が評価してもよいわけですが、小説世界及びこれの読み手は自分に照らして考えますのであえて主観にスポットを当てます)で、「傲慢」だから駄目だ。「善良」だから望ましい。という反省は人生の評価において優先順位が低いように思う。こと婚活小説内世界に限って言えば「傲慢」だから駄目だ。「善良」だから望ましい。で問題なさそうですが、社会人としてはどうかな?そればっかり気にしていると会社に行けなくなっちゃうぞ。

 さらに、小説のジャンルはどこかに匂わせくらいはしておいてほしいもので、こういう小説がある程度の割合で混じっているのだとすると辻村深月さんの小説は手を出しにくくなってしまう。

 ところで、「真美」さんの出身校は群馬県にある品が良い(家柄が良い)ことで有名な中高大の一貫教育校という事になっていて、中学から通うと「純金」、高校からだと「18金」、大学からは「メッキ」と呼ばれているという事で、東海地方の方は完全に「あの学校だな」という事になってしまう。この大学の設定は「入試難度は低い」「就職は案外有利」「在校生・OBはその名前にプライドをプライドを持っている。」という事になっていて、「真美」さん及び家族の愛校心が「傲慢」の例になっている。最近、東海地方の「あの大学」は共学校との統合を発表し、つまり経営が楽ではなく生き残り策として苦肉の策を選択したのですが、辻村せんせいが「傲慢」の例として「純金」云々を引いたのはかなり本質をついていたのかな?

以上